第11回 「蝋引き」―独自の技とその精神性―

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墨入れが終わり、人形ねぷたの輪郭が次第に見えてくると、次に行うのが、
蝋引きの作業だ。蝋を熱して溶かし、和紙に引いていくのだけれども、
それに適した温度は、おおよそ130度ほどとかなり高温で危険が伴う。
蝋の溶かし鍋をひっくり返そうものなら、軽いやけどでは済まされない。
特に子どもたちには注意が必要だ。

また、熱しすぎると、発火する危険性もある。蝋は主成分が油なので、
水をかけると火勢が増し、火事にもなりかねない。
万が一の対策を講じておく必要がある。
このように、危険を伴う蝋引きの作業だけれど、この「蝋」はねぷたに
とって必要不可欠な存在だ。

前回「墨」が闇を作ると説明したが、逆に、蝋は和紙の裏表に浸透し、
内部の照明の光を透過させる。
つまり、ねぷたをより明るく見せるのだ。「ボンテン」と呼ばれる
ねぷた表面に施された点描が、この効果を生み出している。
蝋の効果はこれだけではない。墨線に沿って蝋を引くことによって、
ただでさえ目立つ墨を、より際立たせる効果も持つ。

そして、蝋の最大の役割は、「色止め」である。
この効果によって、前々回に述べたように、色付けの作業が、簡単に
誰でも参加できるものになる。
ねぷたはその大部分が、蝋で囲まれた一つの区画に色を一種類しか用い
ない。
わかりやすく例えれば、人形ねぷたの着物の帯が「紫」で、上着が「黒」
そしてその模様が「赤」といった具合にだ。

それぞれの区画は蝋で色止めが施されているため、色がにじみ出し、
隣の色と混ざることはない。だから、色付けは難しくないのだ。
「でも、ぼかしと呼ばれるグラデーション技法は、難しいでしょ。」
と思った方が多いと思う。そんなことはない。その辺は次回の「色付け」
で説明しよう。

このように、蝋が入ることで、ねぷたは美しくそしてまた作りやすくなる
わけだが、その反面、先に説明した危険性のほか、完成したねぷたが発火
しやすくなるという危険も伴う。
そんな「蝋引き」の技法に、ねぷた祭りの起源である「眠り流し」の精神性
が、今なお息づいていることを感じる。

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中川俊一 執筆コラム

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