灯籠そして技法としての「ねふた」
次に、ねふたという言葉のもう一つの意味について考えてみよう。
祭りのシンボルであるねふたは灯籠と呼ばれるものの一種である。
もっと広く考えれば立体造形の一種である。
人形ねふたはもちろん、扇ねふたも平面的描写の絵画を扇状の箱型に組み合わせた立体造形の一種である。
では、立体造形としてのねふたを考えてみると、どのような特徴をもっているだろうか、整理してみたい。
特徴①大きさ
人形ねふたで作られる人体、また、扇ねふたに描かれる人体は、実際の人体のサイズよりはるかに大きい。
身長で比較してみても、数倍以上である。つまり身長5mとか10mといった巨人を制作しているのである。
一般的な立体造形の作品を考えてみれば、こんなに大きな人体を作る例は少ない。
身近な例で考えれば、お寺の山門に置かれている仁王像でも、5m級のものはなかなかお目にかかれない。
特徴②発光体
ねふたという立体造形は、外からの光ではなく、内側に照明を設置し、発光している。
これは灯籠と呼ばれものに共通する特徴であるが、ねふたでは、発光体の特性を考慮した様々なデフォルメが用いられている。
一例を挙げよう。一般的な立体造形は外からの光をその表面で反射することで人間の目に認識される。
この際、光源の位置や距離によって、明暗が生じる。そしてこの明暗を認識することで、形の凹凸を認識する。
一方、発光体では、内部から光があてられ、それを立体造形の表面が透過することにより、人間の目に認識される。
この際、光は内部で乱反射も同時に起こすため、立体造形の表面では、明暗が生じにくい。
よって、形の凹凸を認識しにくいという特性をもつ。
この特性を考慮したデフォルメが、ねふたの表面描写に用いられる墨とロウである。
墨は光を遮断し暗い部分を描ける。ロウは逆に光をより多く透過し、明るい部分を作ることができる。
これに加え、色をつける際もぼかしと呼ばれるグラデーション技法を多用することで、形の凹凸をはっきりと認識させることができるのである。
このことは人形ねふたに顕著にみられるが、扇ねふたの描写でも同様のデフォルメが活用されている。
墨だけで鑑みても、通常の絵画の描写では、墨の線をねふたほど太く強く描写することは希有である。
特徴③材料
また、人形ねふたに限った話になってしまうが、次のような特徴も挙げられる。
他の立体造形を制作するときの材料を考えてみよう。
神社仏閣にある仏像などは木材、街かどにあるモニュメントなどは、金属や石材が多い。
子どもたちが図画工作の授業でよく使う材料といえば、油粘土や紙粘土である。
このように一般的な立体造形の材料を並べてみると、その共通点は、立体つまり三次元の物質である。
木材であれば、丸太という立体の物質を彫ったり刻んだりして、立体の形を作り出す。
粘土であれば、その塊を彫ったりくっつけたりして、立体の形を作る。
つまり、材料も立体的な物質なのである。
では、人形ねふたはどうだろう。
簡略に言えば、材料は針金と和紙である。
どちらも厳密に言えば、3次元の立体的な物質であるが、その太さや厚さを誤差として無視すれば、針金は1次元の「線」の材料だし、和紙は2次元の「面」の材料である。
つまり、立体的な形を、立体的な材料を用いずに作っているのである。
これは津軽の人にしてみれば、当たり前のことなのだが、立体造形を作る材料そして技法としては非常に珍しいのである。