第10回 「墨入れ」―感謝、そしてまた感謝―

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紙が貼り終えられた人形ねぷたに、最初に入れるのが墨だ。
次が蝋で、最後に色を入れる。この墨入れで人形ねぷたの優劣が決まる
とも言われるほど、重要な作業である。
発光体である人形ねぷたにおいて唯一光を遮断し、「闇」を作れるのが
墨なのだ。そのため、墨線は非常に目立つ。
墨の筆の勢いはそのまま人形ねぷたの勢いへとつながるといっても過言
ではない。

前にも述べたが、人形ねぷたにはイメージ画はあっても設計図はない。
どの部分にどのように墨を入れるかは、前もって決められていること
ではないのだ。ではどうやって墨を入れるのか。
もちろん経験によって学ぶところも多いけれども、私は最初にこう
教わった。
「自分が組んだねぷたなら、集中して真っ白なねぷたを見つめれば、
おのずと墨が浮かんでくる。」と。
この感覚を身につけることは、ねぷた組師にとって大きな壁であると
思われる。

墨入れに用いるのは、少なくとも三種類の太さの筆と、ボタン刷毛
である。
複数の筆を使うのはその部分によって太さに変化をつけるためだ。
そのバランスをとるのがまたなかなか難しい。ボタン刷毛とは、
髪などの毛の流れを描くのに用いる刷毛で、含んだ墨を新聞紙などで
十分にかすれさせてから描いていく。

墨入れに用いる墨には、少量の水性絵の具を混ぜ合わせるとよい。
これは墨に粘りを出し、にじみを防ぐほか、床置きで描くのと違い、
縦の面に墨を描くことが多い人形ねぷたで、墨が紙の表面上を流れ
落ちるのを防ぐためだ。

墨入れは、なかなか難しい作業で、皆に手伝ってもらうことができない
作業だけれども、私は孤独感を感じない。筆を置く紙の向こうに仲間の
思いが感じられるからだ。
それを教えてくれたのが、私がねぷたを教わった師の言葉だった。
まだ団体の責任者になりたてのころ、墨入れの際ひどく怒鳴られた。
「筆に気持ちがこもっていない。お前はその筆を置く紙を貼ってくれた
仲間への感謝を忘れてはいないか。」
今もって毎年の墨入れの際に思い出し、肝に命じなおす言葉である。

次回は、蝋引きについて述べていこう。

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中川俊一 執筆コラム

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